演じるにあたって
2.主要キャラクターのイメージはサイトTOPよりご覧いただけます。
3.()は漢字の読み方、または、キャラクターセリフ中の動作を表現します。
4.ーーXXX は状況や動作を表現するト書きです。
5.ーーーーー はシーン転換や間を開けることを意味します。
元魔王 旅人 年齢:数千歳
魔王の娘 年齢:11
元上流市民の老婆 イーラの祖母 年齢:63歳
演劇団の座長 元魔物 年齢:不明
金と権力の神 年齢:数万数千歳
インプ族の小男。人魔戦争敗戦後の抗争に参加し、街の奴隷となる。逃げ出したが捕まり、殺されかけたところをヴェルに助けられる。 年齢:二十歳前後
町の貴族兵。脱走した魔族奴隷クリシュオラを捕まえて暴力をふるう。物語の進行のための役。 年齢:二十歳前後
イーラの寝室。布団の中でお婆ちゃんに本を読んでとねだる。
イーラ:ねえ、ばあば。
エリス:なんだい、イーラや。
イーラ:あのね、眠くないから、今日もご本読んでぇ。
エリス:あらあら、甘えん坊さんねぇ。うふふ。じゃあねえ、今日はこの本を読んであげようかしら。これはねママが1番好きだった物語だよ。
イーラ:うん。やったあ。どんなお話なの?
エリス:ずっと昔の、魔族の王様のお話だよ。どれどれ。昔々、魔族がまだ誕生していない遥か昔、人と神の時代に聖戦が起こりました。その時代では、「権力と金の神ギルディ」と「愛と慈悲の神イルミア」の信者で世界は二つに分かれていました。そしてギルディの信者たちは、たびたびイルミアの信者たちから財産や権力を奪いましたが、イルミアの信者たちは抵抗をしませんでした。
イーラ:かわいそう。イルミアの信者たちはどうして抵抗しないの?
エリス:そうねぇ。どうしてだろうねえ。
イーラ:えー。うーん・・・
エリス:・・・ヴォルカスは信心深いイルミアの信者であり、騎士であったそうな。しかし、なぜ自分たちだけ奪われなければならないのか、不思議でならなかった。そこでヴォルカスは神に問いかけました。
ヴェル:イルミア様、なぜ我々は彼の者達を愛さねばならないのですか。
エリス:しかし、神は何も答えません。
ヴェル:イルミア様、なぜ我々は彼の者達を・・・愛さねばならないのですか。
エリス:やっぱり、神は何も答えません。
イーラ:神様はどうして答えを教えてくれないの?
エリス:それはね、きっと自分で考えないといけないことだからよ。
イーラ:えー、うーん・・・わかんない・・・うーん。
エリス:来る日も、来る日も、ヴォルカスは神に問い続けました。でも神からの言葉はない。ある日ヴォルカスは神殿に来なくなりました。彼は最後の晩、神にこう問いかけました。
ヴェル:イルミア様、なぜ我々だけ、奪われ続けなければならないのですか。
エリス:その日ヴォルカスは魔に落ちました。それからヴォルカスはあちこちで苦しむ人々を魔の力で救い、あっという間に魔族の仲間をこしらえた。
イーラ:すごい!
エリス:そうだね。きっとすごい強い騎士様だったんだろうねえ。
イーラ:かっこいいね。
エリス:そうねえ。・・・さて、強欲なギルディはヴォルカスにこう持ちかけました。
ギルディ:イルミアの信者を魔族に変えよ。さすれば我が貴様らの繁栄を約束してやろう。
エリス:ヴォルカスはギルディのことが大嫌いでしたが、戦っては多勢に無勢です。仕方なく誘いに乗りイルミアの信者を次々と魔に落としていきました。そして、多くの者が魔に落ちた頃、ギルディは自分の信者たちにこう言い放ったのです。
ギルディ:信者たちよ、イルミアとヴォルカスを滅(ほろぼ)し、我が時代を作るのだ!奪え!己と家族と、その末代(まつだい)のために。愛や慈悲で飯は食えぬ!誰が貴様の明日を決めるのだ。そうだ、紛れもない、貴様自身だ!見よ、愛に絆(ほだ)された者たちの姿を!数多くのものが魔に落ちた。なんと嘆かわしい。彼らはいずれ我々、いや、貴様の血族に刃(やいば)を向けるであろう。愛はいずれ憎しみにかわる。止めねばならぬ!我らが隣人共が魔に落ち切る前に!
エリス:ギルディの信者たちは皆、手に武器をとり、イルミアの信者とヴォルカスの仲間たちを殺し回りました。多くの仲間を失ったヴォルカスは憤ります。
ヴェル:許さぬ、ギルディ。私の愛する仲間たちを・・・。
エリス:憤怒に任せて剣を振るうヴォルカスはまさに一騎当千。一人で何千、何万もの敵の兵士を蹴散らしました。そして、戦いの最中ふとあることに気ついたのです。
ヴェル:私が切り捨てた者たちは、誰なのだろうか。誰と共に暮らし、誰のために戦っているのだろうか。
エリス:ヴォルカスは逡巡します。しかし、聖戦は待ってはくれず、1日また1日と多くの人々の命が地に帰っていくのです。三日三晩思い悩んだヴォルカスは、ふとイルミアに問いかけたのです。
ヴェル:イルミア様、私には愛がわからなくなりました。憎しみもわからなくなりました。イルミア様、愛とはなんなのでしょうか。
エリス:イルミアは静かに答えました。私にもわかりません。ただ其方が愛を望むのであれば私は、私の愛を、其方に授けましょう。イルミアの加護を受けたヴォルカスは敵を殺すでもなく、それぞれの国の間を真っ二つに割りました。それが今に残る魔海溝となったのです。
イーラ:むにゃむにゃ。
エリス:クス、こんな本でも寝れるのね。あなたのママにそっくりね。
イーラ:むにゃ・・・それで・・・ヴォルカスは・・・どうなっ・・たの??
エリス:ヴォルカスは、世界に溢れる争いの気を根こそぎ吸い取って、憎しみと破壊の神になりました。その日、世界に魔王が誕生したのでした。
イーラ:むにゃ・・・王様になったのね・・・ヴォルカス・・・よかった・・・ね。すぅー。すぅー。
オレンド:(ナレ)「10年前、1000年にもわたる人族と魔族の争いに決着がついた日。今日は、人魔終戦記念日。人々は平和を歌い、勇敢を語り、発展を踊る。歌と踊りを肴に酒飲み語り合う。それが人魔終戦記念祭。10年で戦争の傷は言えず、人々は復興と貧しさに嘆きながら、それでも力強く生きようとしていた。
お祭りで賑やかな田舎町を一人歩くヴェル
ヴェル:あの日から今日で10年。
ヴェル:(M)「私は何をしたいのだろう・・・戦争に負け、最愛の者をなくし、してなお、何かと触れ合いたいとでも思っておるのか。
ヴェル:こうも、、私は何を・・・(ため息)。。。
オレンド:お、どーも。あ、こっちも、まいど!さんきゅーなー!
ヴェル:・・・演劇か。このような田舎の町に。珍しい。
オレンド:ん?へい!そこのにいちゃん!
ヴェル:・・それにしても、騒がしい・・・
オレンド:おいおい!にいちゃん!・・・にいちゃーん!
ヴェル:・・・ふむ。私のことか?
オレンド:おぉ!やっと気づいたか。そうだよ、にいちゃん。なんかすごーい思い詰めた顔してるから気になってな!
ヴェル:そのような顔を、しておったか?
オレンド:そうよ!こんなに明るいおてんとさんと記念祭!なんてハッピーな日なんだ!。。。ってところに、すんげーブルーな顔して歩いてるから、ますます気になっちまったのかもな!
ヴェル:すまぬ。暗そうで。あいにくそういう性格なのでな。
オレンド:ほんとかー?祭りに誘ったガールにお断りされちまったんだろ?
ヴェル:・・・
オレンド:わりいわりい!そーりーそーりー。怒るなって。にいちゃん、名前はなんてんだ!
ヴェル:・・・なぜ言わねばならん。
オレンド:いいじゃねーか!なんかのよしみだよー!俺は役者のオレンドだ。よろしく!
ヴェル:・・・ヴェルという。旅人だ。
オレンド:おぉー!くーるな名前じゃねーか!ヴェルー!
ヴェル:やめろ、絡むな。
オレンド:んー。なんか、ヴェルとは初めて会った気がしないんだよなぁ!はっはっは!
ヴェル:私は全く思わん。・・・冷やかしだけなら私はお暇させてもらうぞ。
オレンド:おお、おいおいおい、そんな冷たいこと言うなよ!演劇、見てってくれよー!
ヴェル:・・・演目はなんだ。
オレンド:うちの劇団の新作!「魔城(まじょう)の姫君!」魔王に恋した姫様の話さ!
ヴェル:断る。
オレンド:即答!おいおい!待てよゔぇーるー
ヴェル:・・・すまぬが興味がない。
オレンド:ゔぇえええるうう(縋り付く)
ヴェル:・・・
オレンド:ゔぇえええぇえぇぇえるうううう
ヴェル:わかった、わかった。わかったわかった。見る、見るので離れろ。
オレンド:おおし、そうこなくちゃ。いいやつだなぁヴェルは。一名様ごあんなーい!
ヴェル:・・・
オレンド:はっはっは!不貞腐れんなって!幸せが逃げてくぞー!のーのーあんはっぴーあんはっぴー。楽しい楽しい演劇の世界へいってらっしゃーい。
ーーーーー
ーー演劇 ここから演劇役者として 女性が魔王に縋り付く
ーーーーー
イーラ:おぉ!魔王様、私も戦へ連れて行ってくださいませ!あなたの元を離れたくありません!
オレンド:ならぬ。我が君よ、我はそなたが戦火(せんか)に伏せる姿を。。。我とて、負けぬとは限らないのだ。
イーラ:されど!私は人間であります。ここは魔が跋扈(ばっこ)する地にあって、いつこのか弱き命が散るともわかりません。お願いですから、あなたの側にいさせてください!
オレンド:っく・・・(歯を食いしばって去る)
イーラ:魔王様!魔王様!
ーーーーー
ーー姫の元を離れた魔王が小声で従者を呼び出す
オレンド:・・・近衛(このえ)よ。
エリス:主よ、及びでしょうか
オレンド:ふむ。姫のことを頼む。城内には姫のことをよく思わぬ者もおる。・・・容易(ようい)でない仕事ゆえ、そなたにしか任せられぬ。
エリス:ありがたきお言葉。身命を賭してお使えいたします。
ーーーーー
ーー魔王の訃報(ふほう)を受け取り乱す姫
エリス:姫様!おやめください!
イーラ:離して!魔王様が亡くなったのに、この私が生きていることなんて許されない!
エリス:かようなことはありませぬ!姫様は人の身です!人の世が訪れれば、姫様を蔑む魔はすでにおりませぬ!
イーラ:人でありながら魔の王を愛したこの身を、死の贖罪(しょくざい)なしに人々が許しましょうか!
エリス:なりません!お気を確かに、たとえ人が許さずとも、私が一生かけてお守りいたします。
イーラ:なれば!私をここで見放し、私に縛らるのではなく!そなたの自由を!いずれ戦火もおさまるでしょう。そして魔王なき平和な世を・・・。(泣き崩れる)
エリス:姫様!
イーラ:(しくしくと泣き続けて)
エリス:そうまでお気を病まれてはお腹の子にさわります。どうか、私がおりますから、どうか。。。
ーーーーー
オレンド:そうして魔王なきあと、平和となった世を従者と共に見て歩いているそうな。彼女たちに敵意はない。今こそ剣を納め、我々は次の時代へと踏み出さねばならぬ。皆様もいつか魔王の子と出会ったとして、争いの火をくべることなきよう。魔王の子もまた、我々と同じ平和の世に生まれた命なのだから!
ーーーーー
ーー演劇終わり 拍手喝采のあと、劇場から退場していく。出口の前には演者が並んで観客を見送っている。
ーーーーー
ヴェル:・・・ふむ・・・。(退場中)
オレンド:はーい!おかえりなさーい!ありがとー!さんきゅーなー!え?そんな!ちっちゃな劇団ですよ。あっはっは!あ!お次の方もおかえりー!さんきゅーなー!え?握手!照れちゃうなあ!
ヴェルがオレンドに気づくと同時に、オレンドもヴェルに気づく。
ヴェル:ふむ。オレンドか。。。
オレンド:おやー?ゔぇーるー!おかえりなさい!さんきゅーなー!
ヴェル:なんだその、おかえりなさい、というのは。
オレンド:演劇の世界からおかえりなさい!って意味さあ!・・・ちょっと芝居がかりすぎかね!
ヴェル:ふむ。そのようなことはないと思うが
オレンド:おぉ、おぉ。さんきゅーな。・・・おや?ゔぇる!泣いてるのかい!そんなに感動しちゃったのかい!?
ヴェル:・・・私が?泣く?・・・
オレンド:お?生まれて初めて泣いたみたいなリアクションだな!
ヴェル:いや・・・私の涙は尽きたかと思っていたが・・・
オレンド:はっはっは!なんだあ!変なヴェルだな!いやー、なんかそうまで感動してもらえるとは、なんか、俺まで・・・
ヴェル:茶化すな。くだらん芝居はやめろ。
オレンド:はっはっは!バレた?
ヴェル:・・・オレンド、私はお前を気に入った。褒美として一つだけ、感想を述べてやろう
オレンド:およ!変わり者のヴェルくんから感想なんて!ぎぶぎぶ!聞いちゃうぜえ。
ヴェル:死んだのは魔王ではなく、姫の方だ。
オレンド:(意外な感想に驚いてちょっと面白がる)・・・へぇ。
ヴェル:以上だ。
オレンド:・・・なあ!ヴェルは半魔だろ?
ヴェル:・・・そうだ。
オレンド:俺もそうなんだ。
ヴェル:・・・なぜわかった。全て魔力は封じているはずだが。
オレンド:いや!俺魔力全くないから、正直人間と魔族の区別は見た目くらいでしかわかんねぇ!・・・けど
ヴェル:・・・けど?
オレンド:なんか、そんな気がしたんだ!はっはっは!運命の出会いってやつかもなー!
ヴェル:・・・ふむ、くだらん。私はもういく。後ろが詰まっておるからな。
オレンド:おぉ!わりい、んじゃ!またどこかで見かけたら、また劇を見に来てくれよ!俺達も旅芸人だからさ、どこかでな!
ヴェル:・・・その時は、新作を楽しみしている。
オレンド:おおよ!そんじゃー、さんきゅーなー!
ヴェル:(M)私は歩き始め、その場からはなれた。後ろから奴のこぎみ良い声が聞こえてくる。なんとも変わった男だ。
オレンド:おかえりなさーい!さんきゅーなあ!え?ハグ?それはダメだぜマダム!有料なのさぁ!でも今日は気分がいいからタダにしちゃうぜぇ!はっはっは!お次の方もおかえりなさーい!さんきゅーなー!
ーーーーー
ーーぼんやりと劇のことを思い出しながら道を歩くヴェル
ーーーーー
ヴェル:(M)「・・・ロクシー。物語のように、私ではなく、もし君がこの道を歩いていたら、どう思うだろうか。あの時、君の願いを聞いて戦場に連れていれば、まだ君は生きて私の横にいたのだろうか。私がおらぬ魔王城で、君は何を考えて、何を願っていたのだろうか。あの日から私の心は死に、付き従う仲間の声に奮い立つこともできず。ただ我が軍が負けていく様を他人事のように眺めておった。私までも亡者のようになり、ただ君の亡骸を眺め、気づけばあっという間に骨だけになった。その間に世の中は様変わりし、今やどこを見ても人しかおらぬ。
ーーーーー
エリス:イーラや、せっかくのお祭りなんだから、もう少しみんなと遊んできたらどうさね。
イーラ:いや!みんな私と一緒にいたって、つまんないもん!
エリス:あらあら。そう怒らんと。みんなだって悪気があったわけじゃないんだから。
イーラ:じゃあばあばはどう思うの!?私のこの服!
エリス:ばあばは可愛いと思う。けどもね。
イーラ:じゃあいいの!ばあばが可愛いって言ってくれるなら!(友達の真似風)真っ黒でなんかしみっぽーい、なんて!みんなの方がずっと可愛くないもん!(走り出す)
エリス:あ、これ。
イーラ:いいんだもーん!みんなとなんか遊ばなー、わっ!(ヴェルにぶつかる)
ヴェル:ん?
エリス:おぉ、すみません。前も見ずに
イーラ:いたた・・
ヴェル:気にするな。子供は元気な方がよい。(イーラを見て手を出して)すまぬ、避けることができなかった。
イーラ:??(ちょっと驚く)・・・こ、こちらこそごめんなさい。
ヴェル:(エリスに向き直り)素直で良い子だ。怪我がなさそうでよかった。では、これで。
ぼんやりとまた劇のことを考えながら歩くヴェル。背中から二人の声が聞こえる
イーラ:・・・変なおじさん。
エリス:これ、イーラが前を見ないで飛び出したからでしょう。
イーラ:てへへ、優しい人でよかったね。
ーーーーー
ぼんやりとあてもなく賑やかな街を散歩し、いつの間に日が暮れる。
ーーーーー
ヴェル:(M)まったく、街の者は相変わらず賑やかだな。いつまで呑み騒ぐつもりだ。だいぶ中心から離れていると思うが、どこもかしこもお祭り騒ぎだな。
ーーその時、ふと不穏な気配を感じる
ヴェル:(M)ん・・・?魔族の血の匂い・・・と、付近に人間の気を感じる・・・?何事かはわからぬが、放ってはおけぬ。
ーーーーー
貴族兵:貴様、脱走した魔族奴隷がどのような目に遭うのか、わかっているのか。
ヴェル:(M)街の貴族兵と、奴隷か・・・。
貴族兵:・・・死んだか?まぁいい。主人より生き死には問わぬと言われておる。そのうち野垂れ死ぬだろう。人目のつかない路地にでも放っておけ!主人には死んだと報告しておく!
ヴェル:・・・
貴族兵:さて、帰るぞ!見回りの続きだ!
ヴェル:(M)行ったか。まだ息があるようだが・・・治療なしでは死ぬな。
貴族兵が去った後、捨てられた魔族の元へいき声をかけてみる
ヴェル:大丈夫か。・・・気を失っているか。
ヴェル:(M)魔法を使うのはまずいか。魔族だと気付かれてしまう。とすれば、回復の魔法陣か。暖かく、風のない場所があれば・・・。ふむ。とりあえず運ぶか。
ヴェル:よっと。すぐ良くしてやるから。死ぬな。
ヴェル:(M)「しかし、おかしい。この奥は建物はあるが、人気が全くないな。・・・今は・・・ちょうどよいか。
ーーーーー
ーーさらに人気のない方へ歩くと、一件だけ明るいがついた家を見つける。
ヴェル:少し下ろすぞ。よっ・・・悪いな。今そこの家のものに一晩匿ってもらえぬか聞いてこよう。
家のドアをノックする
ヴェル:(M)不在か・・・?
ーーもう一度家のドアをノックする
エリス:はいはい、こんな時間にどちら様ですかねえ?・・・あら。あなたは・・・。
ヴェル:夕刻に突然にすま、ぬ・・・昼間のご婦人。
エリス:とんでもございません。何か落とし物でもされましたかね。
ヴェル:いや、不躾なお願いだが、一晩だけ泊めてはもらえぬか。そこで傷ついた魔族を見つけた。治療をしたいので暖かい部屋を探しておった。
エリス:(そっと家を出て傷ついた魔族を見つける)おやまあ、これは大変。どうぞどうぞ。古い家ですが、使ってくださいな。
ヴェル:・・・断らぬのか。魔族というのに。
エリス:・・・人も魔族も、命ある仲間だと、私は思っています。ある人から引き継いだ心だけれどね。
ヴェル:そうか。慈しみある婦人よ。そなたと、その人に感謝する。
エリス:クス、大袈裟な方さね。どうぞ、気をつけて。
家に上がって魔法陣の準備をはじめる。
ヴェル:婦人よ、汚してよい人が寝れるほどの布はあるか。
エリス:ええ。こちらに。こんな古いシーツでよろしければ。
ヴェル:十分だ。
エリス:他にいるものはありますかね。
ヴェル:ない。私の血で十分だ。(指を噛んで傷をつける)
エリス:・・・
ヴェル:久しぶりに書くな。。。確か、蘇生の魔法陣はこうだったか・・・。
エリス:・・・
ヴェル:何をじっと見ておる。やはり珍しいか。
エリス:いえね。昔同じようなことをよくやっている者が近くにおったもので。
ヴェル:ふむ。珍しいな。魔法陣は古の時代のものだが。博識なものと親密だったのだな。いや。物好きというべきか・・・。よし。できた。
エリス:・・・
ヴェル:万物を愛す神よ 我が名は ヴォルカス ディアブロ ローイ 今ここで貴方との契(ちぎ)りに反き 母なる大地に眠る命の芽をかの者に与えることをお許しください。しからば、私は貴方様のことを永遠(とわ)に尊ぶでしょう。ワーラ フレン ウィ ハーヴィン ジーザス ワーラ フレ ヴィ ハーヴィン ジーザス
ーー魔法陣が光り始める
ヴェル:・・・ふむ。久々だったが、成功したようだ。
エリス:それはそれは。一安心なのね。
ヴェル:そうだ。明日には、痛みは残るが一人で歩けるだろう。
エリス:では、貴方様も一息ついてはいかがですか。コーヒーでも入れましょうか。
ヴェル:ふむ・・・いただこう。
ーー落ち着いたところに突然ドアが開く
イーラ:ばあば!お風呂あがったよー!
エリス:まぁイーラや!
ヴェル:・・・
イーラ:い!?なんで昼間のおじさんがいるの!?ここ私の家よ!
ヴェル:勝手に上がってすまぬ。謝ろう。
エリス:すみませんねぇ。お昼に続いてお見苦しいところを・・・こら、イーラやお風呂場で服を着なさいといつも言っているでしょう。(イーラを連れて風呂場へいく)
イーラ:い!そ、そうだった!・・・ね、狙ったでしょう!えっち!えーっち!
エリス:これこれ、早く服をきなさい。
ヴェル:・・・ふむ。すまぬ。
ーーーーー
ーー服を着て出てきたイーラは魔法陣を見ると怒っていたことをすっかり忘れてヴェルに話かける
イーラ:へぇー!これおじちゃんがやったの!ねえ!
ヴェル:そうだ。
イーラ:すごい!ねえこれ、古代魔法なんでしょ!
ヴェル:そうだ。
イーラ:なんでおじちゃんはこんな凄いの知ってるの!
ヴェル:長生きしているからな。
イーラ:そうなの?友達のパパと同じくらいなのに?
ヴェル:そうだ。
イーラ:へぇー・・・。変なのー・・。
エリス:(コーヒーを持ってくる)イーラや、そんなに騒いだら寝ている方が起きてしまうさないの。・・・遅くなりましたね、どうぞ
ヴェル:うむ、すまぬ。
イーラ:ねえ、こっちのおじさんは魔族なの?
ヴェル:ん?そうだ。・・・(コーヒーを口にする)
イーラ:へぇ〜。私たちとそんなに変わらないのね。(ぶつぶつ言い始める)
ヴェル:うむ。婦人よ、よき味である。
エリス:お口に会いましたか。そういえば・・・私はエリスです。
ヴェル:ふむ。そうか、紹介がまだであったか。私はヴェルという。
エリス:ヴェル様ですか。こちらの子は・・・
イーラ:(ぶつぶつ)へぇ〜魔法陣ってこうなってるのね・・・
エリス:イーラや、あなたも挨拶したらどうさね?
イーラ:ん?(何も聞いてなかった)
ヴェル:(イーラに向かって)私はヴェルという。
イーラ:(魔法陣を見ながら)ふーん。ヴェルね。よろしく。
ヴェル:ふむ。よろしく頼む。
エリス:さてさて、イーラや、もうこんな時間だから、あなたはそろそろお部屋にお戻り。あんまり長く起きてると怖い人たちがさらいに来るさね
イーラ:えー!もっと見たい!
エリス:ヴェル様は明日までいるそうだから、そんなに焦らなくても逃やしないよぉ。
イーラ:んー・・・でもぉ・・・んー・・・
エリス:・・・
イーラ:あー!わかった!寝ます。寝ますー。
エリス:いい子ね。さて、私は片付けがあるから、ヴェル様や、寛いでてください。
ヴェル:うむ。世話になる。・・・イーラよ、良き夢を。
イーラ:(近寄ってきて耳元で)ね!おじさんのお話聞かせて!ばあばがお風呂に入った時に上がってきて!待ってるから!
イーラ:(エリスに向かって)じゃー!ばあば、おやすみー!
エリス:(台所から)はあい、おやすみさないねー。
ヴェル:ふむ・・・。ずずず。(コーヒーを啜る)
ーーイーラとエリスの気配が遠かったことを確認して
ヴェル:意識が戻ったか。
クリシュオラ:いっ!気付かれていたか・・・
ヴェル:恐れるな。ここは心優しき者の家だ。
クリシュオラ:・・・こ、これは・・・?
ヴェル:私が書いた。古の知恵・・・と、この家の者のシーツだ。
クリシュオラ:あんたが・・・助けてくれたのか?
ヴェル:そうだ。
クリシュオラ:・・・あんたは・・・?
ヴェル:ふむ。今日はよく名を聞かれる。ヴェルである。
クリシュオラ:俺は・・・クリシュオラ。
ヴェル:・・・名があるのか。さて、話せる範囲で良い。何があった。
クリシュオラ:お、俺は奴隷さ。。。
ヴェル:ふむ。
ヴェル:(M)「人魔終戦から10年。敗北後も各地で魔族の残党は敗れに敗れ、今や森や洞窟の奥でひっそり暮らすか、人の奴隷として生きるかしか魔族には道がない。惨めではあるが、人間からの共存の提案を退け、わずかな者を残すまで戦い続けた我らが種族の宿命か・・・。
クリシュオラ:この街の近くの森にコロニーがあると聞いて・・・
ヴェル:仲間の元へ行きたくなったか。
クリシュオラ:そうさ・・・俺は戦いが終わる前、ひっそりと森に暮らしていて・・・
ヴェル:ふむ。
クリシュオラ:ある日突然、戦いは終わった。。。俺たちは魔王様の訃報をうけた。あんたも知ってるかもしれないが。。
ヴェル:ふむ。
クリシュオラ:そこから大半の森の魔族達は怒り狂ったように人間の街へ侵攻したが、まぁ。。。統率もない低級魔族の群れが人間の軍隊に勝てるはずもなく・・・さ。
ヴェル:参加したのか。
クリシュオラ:・・・ああ。
ヴェル:そうか。
クリシュオラ:・・・俺みたいなインプ族は元々小柄で、力も弱いから。家族で参加したのは俺だけだった。俺は運良く死なずに、この街の貴族の奴隷として雇われた。
ヴェル:それで、近くの森のコロニーに家族がいると思ってか。
クリシュオラ:・・・そうさ。そしたら捕まってあのざまさ・・・。
ヴェル:ふむ。わかった。ご苦労だったな。
クリシュオラ:・・・ん?あ、あぁ。
ヴェル:安心して休むとよい。ここは心優しきものの家だ。
クリシュオラ:あ、あぁ。。。ありがてぇ。。。
ヴェル:ふむ。・・・ずずず。(立ち上がる)良き夢を。
クリシュオラ:(ゴソゴソと寝返る)
キッチンの方にいってエリスに話しかける
ヴェル:馳走になった。
エリス:あら。お話は思う終わったんですか
ヴェル:ありがとう。気遣いに感謝する。
エリス:くす、老婆のいらぬお節介だと思ってください。
ヴェル:では、そうさせていただく。
エリス:ヴェル様は、お風呂ははいられますか?
ヴェル:ふむ。いや私は寝ずとも良き身なので、最後に借ることとする。
エリス:そうですか。
ヴェル:では。
エリス:イーラの部屋は二階に上がって左手の部屋です。
ヴェル:・・・そうか。ありがとう
エリス:イーラは毎晩このくらいの時間から、冒険の本を読んで欲しいと駄々をこね始めます。今日はヴェル様の話を聞きたいみたいだから、子供の相手と思って少しの間だけ、お話を聞かせてあげてください。
ヴェル:・・・
エリス:私は久しぶりにゆっくりお風呂につからせていただきますから。場所とシーツのお代と思ってください。
ヴェル:では、しっかりと勤めあげよう。
エリス:くす、よろしくお願いします。
ーーーーー
ーー2階へ上がって部屋をノックする。
ーーーーー
ヴェル:(ノックする)起きておるか。
イーラ:んー、どうぞ。(ちょっと眠い)
ヴェル:失礼させていただく。
イーラ:やっときた。遅かったのねぇ。
ヴェル:すまぬ。話し込んでしまってな。
イーラ:ん。ゆるそう。
ヴェル:ふっ・・・。
イーラ:ねえ、ヴェルはどこからきたの?
ヴェル:難しい質問だ。私は・・・。
イーラ:ねえ、魔王っているの?
ヴェル:なぜ、それを聞く?
イーラ:あのね、本を読んだの。魔王はね、ヴォルカスっていうの。私はね、きっと可哀想な人だって思うの。
ヴェル:ほう。
イーラ:それでね、私が生まれた年に魔王は死んだの。けど、誰も会ったことがないんだって。どんな人か知らないんだけど悪い人だって。
ヴェル:ふむ。
イーラ:でも私はそう思わないの。魔王はきっとね、いい人だったのよ。
ヴェル:当たってもいるが、間違ってもいる。
イーラ:ヴェルは、魔王のこと知っっているの?
ヴェル:多少なら。
イーラ:やっぱり。ねえ、話して。そのお話。ヴェルの知っていることでいいの。
ヴェル:ふむ。では・・・
ーーーーー
ただ君だけを、守りたいと願う〜プロローグ〜