ただ君だけを、守りたいと願う〜金色〜

演じるにあたって

1.あらすじはスクリプト一覧よりご覧ください。

2.主要キャラクターのイメージはサイトTOPよりご覧いただけます。

3.()は漢字の読み方、または、キャラクターセリフ中の動作を表現します。

4.ーーXXX は状況や動作を表現するト書きです。

5.ーーーーー はシーン転換や間を開けることを意味します。

登場人物

ヴェル

元魔王 旅人 年齢:数千歳

イーラ

魔王の娘 年齢:11

グローリエ(イーラ兼役推奨)

エルフの女性 酒場の接客係 年齢:不明(体は20歳前後)

ビビアン

神兵団筆頭騎士 神の力 年齢:46歳(体は20歳前後)

ララノア(ビビアン兼役推奨)

エルフの女性 酒場のドリンク係 年齢:不明(体は25歳前後)

ギルディ

金と権力の神 年齢:数万数千歳

コロボ(ギルディ兼役推奨 ※年齢差があるため他の方でも)

幼い魔族奴隷 年齢:12歳

宿の受付(ギルディ兼役推奨)

宿の受付 年齢:40歳前後

看守(ギルディ兼役推奨)

牢獄の看守 年齢:25歳前後

ただ君だけを、守りたいと願う〜金色〜

ーーーーー

ーー投獄されたイーラの元にビビアンがやってくる

ーーーーー

ビビアン:・・・囚人、起きていますか?

イーラ:・・・はい。

ビビアン:そうですか。随分とおとなしくなりましたね。

イーラ:・・・はい。

ビビアン:手足を繋がれているのには慣れましたか。

イーラ:・・・いいえ。

ビビアン:そうですか。早く慣れた方が楽ですよ。

イーラ:・・・。

ビビアン:食事と着替えを持ってきました。失礼しますね。(鍵を開けて牢に入る)

イーラ:はい・・・。

ビビアン:今日はバルミスであがった魚の香草焼きです。特別に、国賓の者と同じ食事です。・・・ほら顔をあげて口を開けなさい。

イーラ:・・・。(口を開けない)

ビビアン:・・・はぁ。また怒鳴られたいですか?

イーラ:・・・あー・・・。

ビビアン:よろしい。(イーラの口に食事を入れる)どうぞ、ゆっくりと味わってください。

イーラ:(もぐもぐして飲み込む)

ビビアン:終わったら口を開けなさい。

イーラ:・・・。

ビビアン:はやく!

イーラ:ひ・・・あー・・・。

ビビアン:よろしい。(イーラの口に食事を入れる)・・・噛みなさい。

イーラ:(もぐもぐして)

ビビアン:味はどうですか。私たちも滅多に口にできないものです。

イーラ:(飲み込んで)・・・おいしくない・・・

ビビアン:そうですか。贅沢ですね。

イーラ:ねえ、ヴェルは・・・?ヴェルは大丈夫なの・・・?

ビビアン:知りません。あの者をお師様がどうされたか、私にはわかりません。

イーラ:う・・・ヴェルと、ヴェルと一緒がいい・・・。

ビビアン:またですか。

イーラ:・・・。

ビビアン:良いから食べなさい。さぁ(イーラの口に食べ物を入れる)。

イーラ:(無理矢理口に入れられて、噛んで飲み込む)

ビビアン:飲み込んだら、すぐ口を開けてくださいね。

イーラ:はい・・・あー・・・(口に入れられてもぐもぐ)

ーーーーー

ーー宿場で一人、ヴェル

ーーーーー

宿の受付:いらっしゃーい!

ヴェル:・・・ここは、宿か。

宿の受付:はい、そうです!

ヴェル:半月ほど続けて泊まれる宿を探している。

宿の受付:あ、あー・・・半月ですね、すみません、部屋を探してみます。えっとー・・・あー、7日分くらいは空いてるんですけど、半月は・・・空いてないですね。

ヴェル:そうか・・・。

宿の受付:半月後には、神の生誕祭がありまして・・・その観光のために宿がいっぱいなんです。おそらく、どこの宿も今時期はいっぱいだと思います・・・。

ヴェル:そうか・・・。手間を、かけたな。

宿の受付:あ、はい、とんでもございません。・・・と、ところでお客様。

ヴェル:ふむ。・・・どうした。

宿の受付:バルミスは、壁に囲まれているので風が少なく、この時期でもまぁ・・・比較的過ごしやすいですが。。。やっぱり外は冷えますよ?

ヴェル:感謝する・・・が、大丈夫だ。

宿の受付:あと、ものすごく顔色が悪いようですが・・・大丈夫ですか?先1週なら泊まれますが・・・少しお安くしましょうか?

ヴェル:・・・そうか、そう見えるか。

宿の受付:は、はい。

ヴェル:すまんが、今は問答に答える気力が、ない。

宿の受付:あ、し、失礼しました。

ヴェル:すまない。

宿の受付:と、とんでもございません。では、またのご来店をお待ちしております。

ーーーーー

ーー宿を出てフラフラと歩くヴェル

ーーーーー

ヴェル:もう争いは終わったものと、喉元過ぎれば熱さ忘れるとは。私はどれほど愚かなのだろうか・・・。

ヴェル:・・・久しいな。数年前は一人で歩く街が当たり前であったのに、また、私は失うのか。いや・・・それとも、また別か・・・。そなたなら、そなたなら、どう思うか・・・イーラよ。

ーーーーー

ーーバルミスの近くまで馬車でくる

ーーーーー

コロボ:そ・・・それじゃあ・・・僕は、番に戻ります・・

ヴェル:イーラが、世話になった。

イーラ:うん!楽しかったね!

コロボ:そ、そう、ですね。僕も、楽しかったです。

イーラ:ね、コロボ!バルミスでも会える?

コロボ:え・・・えっと・・・。

ヴェル:ふむ。同じ道は通れぬか。

コロボ:そ、そうです。

イーラ:え!どうして?

コロボ:えっと・・・僕は魔族なので・・・えっと・・・

イーラ:魔族だから?

コロボ:い、イーラさんは、商業区ってわか・・・らないですよ、ね?

イーラ:しょう、ぎょう、く?うーん・・・わかんない!

コロボ:えっと・・・バルミスの一番外側にあって・・・商売をしている人たちが集まっているところなんだけど・・・

イーラ:へぇー!そんなところがあるんだー。

コロボ:そ、そう、です。そこは荷物を運ぶためなら、僕たちも通って良いんです。

イーラ:へぇー・・・

コロボ:でも、商売人以外は、入っちゃいけないから・・・多分、向こうじゃ会えない・・・です。

イーラ:・・・じゃあ、ここでお別れなの!?

コロボ:え、えっと・・・そう、です。

イーラ:えー!もっとお話したかったのにー・・・

コロボ:え、ごめん、なさい。

イーラ:・・・

コロボ:・・・あ、じゃぁ。ちょ、ちょっと待っててください。

イーラ:ん?うん!・・・ねぇ、ヴェル!

ヴェル:どうした。

イーラ:もう、会えないのかな・・・。

ヴェル:ふむ、おそらく、会うことになるだろう。

イーラ:・・・そっか!魔大陸にいったら?

ヴェル:そうだ。

イーラ:・・・えへへ・・・よかったー。あっ、コロボ!

コロボ:あ、えっと、イーラさん、これ・・・

イーラ:これは?えっとー・・・

コロボ:魔大陸で、僕が働いている、場所の名前なんですけど・・・

ヴェル:ふむ。ちょうど良い。

イーラ:えへへ、うん!

コロボ:え?

ヴェル:私たちも魔大陸を目指しておる。

イーラ:そうなの!

コロボ:・・・城、ですか?

ヴェル:ふむ。そうだ。

コロボ:な、なんで、お城に?

イーラ:えっとー・・・行きたいのは私なんだけど・・・ね、えへへ。

コロボ:そう、なの?

イーラ:うん!ママが好きだった景色を見に行きたいの!

コロボ:え・・・あ、そうなんですね。

ヴェル:ふむ。コロボよ。

コロボ:は、はい。

ヴェル:魔大陸についたら、そなたを尋ねることとする。

コロボ:あ、わ、わかりました。

イーラ:うん!

ビビアン:それでは、客人の皆様、バルミスへ向けて出発しますので、馬車へお戻りください!次の宿場は明日の昼ごろの到着になります。不足のものなどあれば、今のうちに申し付けください。

イーラ:あ・・・もう、出発だね。

コロボ:は、はい。

イーラ:また魔大陸についたら会おーねー!

ヴェル:コロボよ。しばしの別れだ。

コロボ:はい、また!

ーーーーー

ーーバルミスの近くまで馬車でくる

ーーーーー

ヴェル:見えるか、イーラよ、あれがバルミスだ。

イーラ:見えた!?

ヴェル:うむ。こちらの窓から見ることができる。

イーラ:みせてみせてー!(向かい側のヴェルの方へ乗り出す)・・・わー・・・!すごーい!・・・ねぇ!全部壁だよ!

ヴェル:うむ。

イーラ:なんで!?

ヴェル:バルミスは戦時中、人の軍の拠点となった街だった。その防衛のため、四方が壁に囲まれておる。

イーラ:へー!

ヴェル:最も強固な防壁をもっておる。今は一部壊されたと聞くが。その当時の名残であろう。

イーラ:すごーい・・・ひろーい!っていうより、でっかーい!って感じだね!

ヴェル:そうだな。

イーラ:ねっねっ!バルミスは港町だったよね?

ヴェル:そうだ。海岸に面した側の防壁を抜けたすぐ先が港になっておる。

イーラ:へー!・・・美味しいお魚食べれるかな!?

ヴェル:そうだな。魚を生で食することのできる数少ない街だ。

イーラ:え!?お魚を焼かないで食べるの?

ヴェル:そうだ。

イーラ:へぇー・・・。楽しみだなぁ。おっさかなー。

ヴェル:ふむ。

イーラ:そういえば、コロボは大丈夫かな?

ヴェル:うむ。私たちより慣れておるだろう。

イーラ:そっか、そうだよね!

ビビアン:(馬車の外から大声で)客人の皆様、バルミスの関所へ間もなく到着します。ご自身の移送車で同行されていた商人様はそのまま商業区への入場手続きに進んでください。神兵団の馬車へお乗りの商人様も、ここで降りて、商業区への入場手続きに進んでください。

イーラ:ね、関所って何?

ヴェル:街へ入る者を取り締まるための場所だ。

イーラ:とりしまる?

ヴェル:なんと言えば良いか、例えば、商人が何か危険なものを街へ持ち込んでいないか、や、旅人に混じって商売用の馬車が住宅や観光をする場へ入り込み商いを行う、など。街で定めたルールに則らない者が街へ入ることを防ぐ役割をしておる。

イーラ:へ、へー・・・難しい・・・。

ヴェル:ふむ。ゆっくりと理解すると良い。イーラであれば、すぐだろう。

イーラ:そ、そうかな。にへへ。

ビビアン:(馬車の外から大声で)神兵団の馬車にお乗りで、商い以外を目的とされている客人は今しばらくお待ちください。団員が参りますので、その目的とお持ちであればご身分を証明するものをご提示ください。特に、神兵団要塞本部へいらっしゃる方は、必ずここで証明を提示してください。

イーラ:わ、私たちは、港から魔大陸に向かう船に乗りますって言えば良いのかな。

ヴェル:ふむ。おそらくそうだが・・・

イーラ:うん?

ヴェル:船に乗る金をどこかで見繕わねばならん。

イーラ:あ、そっか・・・。

ヴェル:必要に応じて出稼ぎを含むことを伝えると良い。

イーラ:はーい!わかった!・・・あっ!ビビアンさん!

ビビアン:失礼します、客人。お待たせしました。お二人が街へ入る目的を聞きに来ました。

イーラ:えっと・・・魔大陸に向かう船に乗ろうと思ってます・・・!

ビビアン:そうですか。魔大陸へは現在、物資運搬のための商船しか出ておりません。それ以外ということであれば、旅客船を1台貸し切って、と言うことになると思いますが、そういうことですか?

イーラ:え?えっとー・・・

ヴェル:どちらでも良い、私たちは魔大陸へ渡りたいだけだ。

ビビアン:無許可者が魔大陸へ長期滞在することは禁じられています。バルミスで往復の日程や渡航手続きの必要があります。

ヴェル:ふむ・・・。では、物資運搬の船に乗っての往来はできぬか。

ビビアン:当たってみますが、おそらくありません。これから冬の時期が訪れますが、この季節は海上の便も少なくなります。

ヴェル:そうか。ふむ。

ビビアン:・・・間違っても、魔素を使って解決しようとしないでくださいね。

ヴェル:そうか。

イーラ:ど、どうしよう・・・ヴェル・・・。

ヴェル:金もないので、街で勤めながら、年をまたぐ、か。

ビビアン:・・・まぁ堅苦しいことをいいましたが、私からご提案です。

イーラ:え?提案?

ビビアン:はい、神兵団の戦艦を出しましょう。

イーラ:え?い、いいの?

ビビアン:はい。ただし、条件があります。お師様、いえ、神兵団団長がお二人を引見(いんけん)したいと。

ヴェル:・・・ほう。

イーラ:し、知っている人、、、かな?

ビビアン:おそらくご存知でしょう。戦時より、王の身は辞されてますが、人も魔族も皆、一度は耳にした名だと思います。

ヴェル:ギルディ、か・・・。

ビビアン:そうです。

ヴェル:ふむ・・・。

イーラ:だ、大丈夫かな?

ヴェル:・・・。わからん。

イーラ:そ、そうだよね・・・。

ビビアン:どうしますか。辞退しますか?まぁ、お二人だけで魔大陸へ行くことができるなら、辞退するのも一つだと思いますが。

ヴェル:・・・。ふむ、その招待を受けるとしよう。

イーラ:だ、大丈夫?ヴェル?

ヴェル:大丈夫だ。今の世だ。ギルディは破天荒な男だが、今更何かをするようなことは、ふむ、なかろう。

イーラ:そ、そっか!

ヴェル:少し、自信がないがな。

イーラ:えへへ、そっか。その時は私が守ってあげるね!

ヴェル:ほう、心強いな。

イーラ:へ?・・・にへへ。

ビビアン:では、このままお待ちください。本日中に話がしたいとお師様が申されてます。この馬車のまま、要塞本部へ向かいます。

ーーーーー

ーー戻って投獄されたイーラと面倒をみるビビアン

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イーラ:あー・・・(口に入れられてもぐもぐ)

ビビアン:これで全てです。どうですか、少し味はしましたか。

イーラ:・・・ちょっとだけ、でも美味しくないです・・・。

ビビアン:そうですか。まぁ、口に入れたので良いでしょう。では、衣服を剥ぎますね。(前からボタンで開ける)

イーラ:はい・・・。

ビビアン:(遠くに声を掛ける)看守、いますか!

看守:(遠くから)はい!どうされましたかー!

ビビアン:(遠くに声を掛ける)囚人の体を拭きたい。金牢獄(こんろうごく)に水を通してください。

看守:はい、少々お待ちください。

ビビアン:(遠くに声を掛ける)お願いします。

ビビアン:いつものことですが、身体に水をかけます。といっても、身動きできないあなたにやる意味があるかわかりませんが。

イーラ:・・・はい。

看守:(遠くから)通りました!この後しばらくは使えると思います。

ビビアン:(遠くに声を掛ける)ありがとうございます!

ビビアン:では、かけますね。

イーラ:ひっ・・・!

ビビアン:さて、髪をよく洗うよう言われているので、しばらく寒いが、我慢してください。

イーラ:ふぅぅ・・(寒がる)・・・(小声で)な、なんで。

ビビアン:(髪を洗いながら)・・・聞こえませんでした。

イーラ:な、なんでビビアンさんが、私の髪を洗うんですか?

ビビアン:看守も兵士も、大体男しかいないので、私があなたの面倒を見るよう言われています。

イーラ:え、えっと・・・

ビビアン:そういうことではなくてですか?あぁ、お師様から、あなたの髪を洗うよう言われています。

イーラ:ど、どうしてですか?

ビビアン:理由は、わかりません。

イーラ:そう、ですか。。

ビビアン:痛くないですか?

イーラ:大丈夫です・・・。

ビビアン:今日は、これを使ってみました。こちらは王妃様に献上している品で、ごく一部の女性しか使うことのできない洗髪剤です。どうですか?

イーラ:・・・わかりません・・・。

ビビアン:そうですか。せっかく使い方を勉強して来たというのに、張り合いがないですね。・・・流しますよ。

イーラ:ひっ・・・つめた、い・・・

ビビアン:そうですね。ここは牢なので、あいにく。

イーラ:(寒がる)・・・!

ビビアン:さて、終わりました。体を拭きましょうか。・・・あと、少しあなたの採寸をさせてもらいますので、もう少し我慢してください。

イーラ:(寒がる)は、はい。

ビビアン:(遠くに声を掛ける)看守、傷病者用に暖を取る器具などはありますか?

看守:(遠くから)はい!ありますよ。今お持ちしましょうか?

ビビアン:(遠くに声を掛ける)お願いします。

ビビアン:・・・タオルで身を隠しますね。

看守:お持ちしました。

ビビアン:ありがとうございます。

看守:使い終わるのはいつ頃ですか?

ビビアン:1刻ほど、借りても良いですか。

看守:わかりました。では、終わったら牢の外にでも置いておいてください。後ほど私が回収しておきます。

ビビアン:ありがとうございます。

看守:では。

ビビアン:ご苦労様です。・・・さて、この器具を髪に向けます・・・熱くないですか?

イーラ:え・・・あ、はい。・・・暖かいです。

ビビアン:では、今のうちに採寸をとります。髪が乾いたら本日の水浴びは終わりです。また夕食まで大人しくしていてください。お手洗いにいきたくなったら、看守に声をかけてくださいね。

ーーーーー

ーーギルディに謁見に来た

ーーーーー

ギルディ:久しいのう、ヴォルカスよ。全く顔を見せんので、死んだかと思うとった。

ヴェル:ほう。心にもないことをよく言う。貴様は知っておっただろう。

ギルディ:む?がっはっは!よくわかっておるのう。

ヴェル:ふむ。

ギルディ:さて、狭い会議室ですまんのう。娘っ子は、イーラと言ったか、余はギルディ。見ての通りのじじいだ。

イーラ:わ、私はイーラです。よろしくお願いします。

ギルディ:菓子でもいるか?

イーラ:え・・・えっと、だ、大丈夫です。

ギルディ:なんじゃ、遠慮しとるのか。がっはっは!躾がなっておる。誰に育てられた。この乱暴者ではあるまい。

イーラ:おばあちゃんです。

ギルディ:なんと。その者は人か。

イーラ:は、はい!

ギルディ:がっはっは!さぞ苦労したのだろう。なかなかに知恵のある子だったようじゃ。・・ビビアン、菓子をイーラに出してくれんか。

ビビアン:わかりました。

イーラ:あ、ありがとうございます!

ギルディ:よい、よい。

ヴェル:何を企(たくら)んでおるか。

ギルディ:ぬぅ?がっはっは!娘っ子、貴様の目付役はずいぶんと心配性なようだ。戦争はもう終わったというのに、のう。

イーラ:ヴェル?

ヴェル:いつの時でも貴様はその懐(ふところ)に何かを抱えておる。短い付き合いではないのだぞ。

ビビアン:お師様、菓子とお茶です。

ギルディ:ご苦労。ビビアンは後ろに控えておれ。

ビビアン:はい。

ギルディ:好きなものをとれ。娘っ子。

イーラ:ありがとうございます。え・・・えっと・・・

ギルディ:余のお気に入りは、これだ。

イーラ:え、これはなんですか?

ギルディ:ぬ?小魚を油で揚げて、干したものだったか。すこーしばかり、塩と砂糖をふっておる。

ヴェル:・・・ほう。

ギルディ:疑うてるのう、がっはっは!毒など入れておらん、安心せい。心配なら余から食うてやろう。どれどれ・・・(小魚を口に入れポリポリ)・・・んー、うまいのう。

ヴェル:ふむ・・・。では、私も。・・・(ぽりぽり)・・・確かに、良き味だな。

イーラ:おいしいの?

ヴェル:ふむ。この菓子は少なくとも、な。

イーラ:じゃ、じゃあ、いただきまーす・・・(ぽりぽり)・・・あっ、おいしい・・・!

ギルディ:がっはっは!そうだろうと。楽しんでおれ。・・・さて、ヴォルカスよ。

ヴェル:ふむ。

ギルディ:魔大陸へ渡りたいのだったか。

ヴェル:そうだ。

ギルディ:なぜか。

ヴェル:知ってどうする。

ギルディ:がっはっは!そう警戒することではない。

ヴェル:ほう。では、その薄暗い懐になにも抱えてないと?

ギルディ:いいや、抱えておる。

ヴェル:ふむ。

ギルディ:が、だ。それを話さずしてどうする?人の規則を破って向こうへ渡るか?魔素の薄い地では、お得意の近道も使えんのだろう?

ヴェル:・・・そうだ。

ギルディ:では、余と会話せずしてどうするか。

ヴェル:・・・確かに、貴様の言う通りだ。魔大陸へ渡り、城へ行く。

ギルディ:それで?

ヴェル:自室より、イーラと共に、朝日を眺める。

ギルディ:なるほど。

ヴェル:・・・疑わぬのか。

ギルディ:今更貴様がそんなことを言うとは思うてない。娘っ子の願いだか。

ヴェル:そうだ。

ギルディ:がっはっはっは!娘っ子よ。

イーラ:(ぽりぽりしながら)ふぁ、はい!

ギルディ:貴様にとって、魔王の城から見る朝日とは、なんぞか。

イーラ:え・・・えっと・・・わ、わかりません。ママが一番好きだった景色で・・・ママが最後1番に願ったことです。

ギルディ:そうか。(立ち上がって)素晴らしい願いではないか!

イーラ:え?え?

ギルディ:叶えてあげたい、心から、そう思わんか、ヴォルカス。のう。

ヴェル:・・・!?貴様!

ギルディ:がっはっはっは!・・・ビビアン!剣を構えよ!

ビビアン:は!

ヴェル:イーラ!下がれ!

イーラ:ヴェル!?

ビビアン:捉えます!!(イーラに向けて突進)

ヴェル:させん!(ヴェルが魔法の壁を出す)

ビビアン:止められますか・・・魔素とは、こんな壁にもなるんですね。

ギルディ:狂犬には檻が必要かのう。

ヴェル:寄らせん!!(手から魔導派を放つ)

ビビアン:無駄です!!(剣で受け止める)

ヴェル:ビビアン・・・!退くのだ!!(蹴飛ばす)

ビビアン:ぐっ・・・!(剣で抑えるがよろける)

ヴェル:すまぬ。ふん!!!(衝撃派で吹き飛ばそうとする)

ビビアン:(避けて)ぐ・・!!魔鉱の鎧がなければ、肉片すらも消し飛びそうですね・・・。

ヴェル:最初からこのつもりか。

ギルディ:がっはっは!余からも行くかのう!

イーラ:ヴェル!

ヴェル:(ギルディの突進を避けて)イーラよ!逃げるのだ!

イーラ:で、でも!

ヴェル:・・ギルディ!寄るなと・・・言っておる!!(衝撃派)

ギルディ:おっ!?久しいのう、この痛み。が・・・衰えたか、ヴォルカス。

ヴェル:生身で受けるか・・・化け物め・・・。

ビビアン:イーラさん、逃がしはしません!!

ヴェル:させん!

ギルディ:余の相手をしてもらわなくては、のう!!

ヴェル:(避けて)邪魔だと、言うておる!!

ギルディ:がっはっは!痛いとは、こんなだったか!!

ヴェル:!?き、貴様!

イーラ:ヴェル・・!!

ギルディ:(腕を握る)捉えた。鈍ったのう・・・ヴォルカス。

ヴェル:!?ギルディ・・・!

ギルディ:金剛檻(こんごうかん)!!

イーラ:ヴェル!!!!

ビビアン:すみませんが、静かにしていてもらいますね。(イーラのお腹を剣のつかで殴る)

イーラ:うぅっ・・・!ゲホゲホ・・・ヴェ、ヴェル・・・

ヴェル:イーラ!!!

ビビアン:さすが魔王の子、今ので気を失わないですか。

イーラ:やめ、やめて・・・ヴェルを、はなして・・・

ギルディ:早う、せい。

ヴェル:やめろ!!

ビビアン:では、失礼しますね。(再度、腹を剣のつかで殴る)

イーラ:うっ!!・・・(気を失う)

ヴェル:ビビアン、ギルディぃぃぃぃ!!

ギルディ:連れていけ。その娘っ子の力は使えんよう、金牢獄(こんろうごく)へ放り込んで、繋いでおけ。

ビビアン:わかりました。では。

ヴェル:なぜだ・・・なぜ、このようなことをする!!

ギルディ:吠えるでない。

ヴェル:私を捉えるのなら、まだ、納得しよう。イーラは、なぜだ!!

ギルディ:吠えるな。鬱陶しい。

ヴェル:っく・・・。

ギルディ:こうなってしまっては・・・

ヴェル:・・・話す他、ない・・・と・・・。

ギルディ:がっはっは!分かっておるのう。

ヴェル:・・・殺すことが目的ではない。

ギルディ:そうだ。余興、かの。

ヴェル:余興、だと。

ギルディ:半月後に、余の生誕祭がこの街でひかれる。

ヴェル:・・・。

ギルディ:そこである、神前試合(しんぜんじあい)で、勝てば、返してやろう。

ヴェル:・・・ほう・・・。

ギルディ:これほどになく、簡単。そう思わんか。

ヴェル:・・・思わん。勝ち、とは何を示す。

ギルディ:ビビアンの首を刎(は)ねる。それだけだか。

ヴェル:貴様・・・!人の仲間ではないのか。

ギルディ:余に「仲間」などという、価値なき連れ添いはいない。

ヴェル:・・・ほう。貴様を信じる者を、貴様自身が蔑むか。

ギルディ:がっはっは!いつの日も、平行線か。なぜ、余がビビアンの首をかけて戦わねばならん。

ヴェル:どういうことだ。

ギルディ:己(おの)が首をかけて戦うのは、ビビアンその者、だと言うことだ。それが、余の思惑(おもわく)であっても、だか。

ヴェル:それが、神の言葉か。

ギルディ:いつの時代も、のう。

ヴェル:・・・ほう。では、ビビアンの首を一思いに刎(は)ねてくれる。

ギルディ:がっはっは!楽しみにしている。・・・それと。

ヴェル:・・・まだ用か。

ギルディ:他の手で娘っ子を取り返そうなどと、考えてみよ。美しい金色の髪をしておったなぁ。また、顔立ちもまさに、か。

ヴェル:何が言いたい。

ギルディ:繋がれた愛らしき娘など、それも良い余興になるのでは、とか。

ヴェル:・・・別れ際に憎まれ口を叩く、その癖は、何千年と変わらんようだな・・・。

ギルディ:まして、魔王の血族、だ。大喜びで弄(もてあそ)ぶ者がおるかも、しれんのう・・・。

ヴェル:・・・っく!!

ギルディ:では、半月後を楽しみにしている。がっはっはっは!

ーーーーー

ーービビアンがギルディの部屋に入ってくる。

ーーーーー

ビビアン:お師様。

ギルディ:終わったか。

ビビアン:はい、採寸してきました。こちらを。

ギルディ:ぬぅ。細いのう。・・・ビビアン。

ビビアン:なんでしょう。

ギルディ:もう少し、肥やせんのか。女はふくよかな方が良いと決まっている。

ビビアン:最近は痩せている女性の方が、好まれます。

ギルディ:そうなのか。なんとも・・・余はこの世界で少なき感性をもった側か、がっはっは!

ビビアン:ただ・・・

ギルディ:食わんか?

ビビアン:はい・・・無理矢理にでも口へ入れてますが・・・だいぶ憔悴しているようで。

ギルディ:なんと!では、優しい言葉でもかけてやってはどうだ。ヴォルカスは街をただフラフラしているとでも。

ビビアン:お師様、もう少し、人に優しくなられてはいかがですか。

ギルディ:いつの時代も、山こそが人に這い上がることを覚えさえ、海こそが人にもがくことを教えるということだ。がっはっは!

ビビアン:そうですか。では、報告をしましたからね。

ギルディ:ぬぅ。余は少し、探偵の真似事にでも行くとするか、のう。がっはっは!

ビビアン:・・・殺されないでくださいね。

ーーーーー

ーー街をギルディと歩くヴェル

ーーーーー

ヴェル:・・・ついてくるな。

ギルディ:なぜだか。

ヴェル:・・・ついてくるな。

ギルディ:なぜだか。

ヴェル:・・・ついてくるな。

ギルディ:なぜだか。

ヴェル:・・・なぜ、貴様がここにいるのだ。

ギルディ:教えたら、何かうまいものでも馳走になれるのかの。

ヴェル:ほう。金もない旅人からなおむしろうとするか。

ギルディ:忘れていたわ。立派な城も手放した、流しの者だったか。

ヴェル:貴様は・・・考え事をする時間もよこさんのか。

ギルディ:数日、たっぷりくれてやったではないか。

ヴェル:そうだな。大分、落ち着いた。

ギルディ:ぬぅ。もっと取り乱してくれた方が余は楽しいのだが。

ヴェル:ほう。何年の付き合いのつもりで言っておる。

ギルディ:がっはっは!数年も昔は、そんなことを言うようには見えんかったがのう。

ヴェル:そうか。

ギルディ:そうだ。

ヴェル:・・・して、貴様はたった数年で変わるのか。

ギルディ:変わらん、のう。

ヴェル:それが、答えである。

ギルディ:余が憎いか。

ヴェル:当然だ。

ギルディ:殺したいか。

ヴェル:当然だ。

ギルディ:なんと、その敵(かたき)がおるのに、手一つ出せぬとは。貴様も災難よのう。

ヴェル:・・・どこまで煽るつもりだ。

ギルディ:がっはっは!まぁよい。ついてこい。

ヴェル:なぜついていかねばならん。

ギルディ:なぜ教えねばならぬ。

ヴェル:・・・。

ギルディ:こっちだ。

ヴェル:・・・して、どこへ連れて行くのだ。

ギルディ:じきに着く。

ヴェル:ふむ・・・。

ーー少し歩いて

ギルディ:ここだ。

ヴェル:ここは、なんだ?

ギルディ:ただの空き家に見えるか?

ヴェル:ふむ・・・いや、見えん。

ギルディ:がっはっは!わかるか、そうか。

ヴェル:貴様、私をこんなところへ連れて、何をするつもりだ。

ギルディ:己で考えよ。がっはっは!

ヴェル:・・・ふむ。

ギルディ:では、入るか。(ドアを開けて)・・・久しいのう!美しき子等よ。

グローリエ:いらっしゃーい、あっ、爺や!お久しぶりー!

ララノア:あらー、お久しぶりですー。ギルディ様。あら?今日はお連れ様も一緒なんですね。

ギルディ:人を連れてきた。久しいのう。・・・余が座れる席はあるか。

グローリエ:大丈夫でーす!ちょっと待ってくださいねー。今片付けますからー。

ギルディ:がっはっは!手際がよいのう・・・よし。ヴォルカス、入れ。

ヴェル:・・・ふむ。

ララノア:あら?・・・!?・・・随分とかっこいいお連れ様ですね。

ギルディ:羨ましかろう。余を憎む男だ。

ララノア:そうですか・・・。すごいお友達がいらっしゃるんですね。

ヴェル:・・・そなたらは、魔族か・・・。

ララノア:・・・そうです、エルフ族です。

ヴェル:そうか。

ララノア:あなたは、まさか・・・?

ギルディ:気になるのか。

ララノア:ギルディ様がお連れになる方は、何か必ずありますから。

ギルディ:魔王ヴォルカス、だ。

ララノア:・・・そうですか。

ヴェル:・・・そうだ・・・。

グローリエ:爺やー!片付け終わりましたよー!

ギルディ:では、お邪魔するかのう。ララノアもどうじゃ?

ララノア:よろしいのですか?

ギルディ:良いかどうか、余が決めることではない。

ララノア:そうでした。気になりますから、お酌に参りますね。

グローリエ:はーい!ご案内しまーす!!

ーーーーー

ーー奥に入ってエルフと陽気に飲むギルディと気まずそうなヴォルカス

ーーーーー

ギルディ:がっはっは!髭がのびたか。

グローリエ:そうですよー!この前来た時は、こーんなに長くなかったですよー。

ギルディ:ぬう。この前とは、いつだったか。

グローリエ:1年くらい前でしたっけ?なんか、たまーにひょっこりくるから、覚えてないでーす。

ギルディ:そうかそうか。

グローリエ:それにしても、やっぱりすごい筋肉ですね!ちょっと触って良いですか?

ギルディ:すごいか。貴様は男を楽しませるのが、うまいのう。ほれ、どうじゃ。

グローリエ:おぉ、すごーい!

ヴェル:・・・ギルディよ。

ギルディ:ぬぅ?

ヴェル:なぜ、こんなところへ連れてきた。

ギルディ:先に伝えたと思ったが。己で考えよ、と。

ヴェル:・・・わかると思うか。

ギルディ:関係ない。着いてきた、ということは、貴様も目的があるではないか?それが理由で良いではないか。

ララノア:ギルディ様。あんまりいじめると可哀想ですよ。

ギルディ:いつものことだ、がっはっは!

ララノア:まったく。・・ヴェル様、どうぞ。(お酒を注ぐ)

ヴェル:すまない。

ララノア:ギルディ様はとても、強(したた)かな方です。

ヴェル:・・・よく知っておる。

ララノア:そうですよね。魔王様、まさかこのような形でお会いするとは思いませんでした。私は、エルフの長であった、ララノアです。

ヴェル:・・・直に会うのは初めてか。

ララノア:はい。私たちエルフ族は、早々に離脱し、戦争には参加していませんでしたから・・・。

ヴェル:そうか・・・。

ララノア:はい。

ギルディ:(ごくごくと酒を飲む)がはぁ!

グローリエ:おぉー!爺やすごーい!何杯いけんのよ!(注いで)・・・はいはい!どうぞー!

ギルディ:グローリエが注ぐならいくらでも、かのう。

グローリエ:さすがー!かっこいいー!

ギルディ:ぬぅ。一つ、余の頼みを聞いてくれんか。

グローリエ:なになに?・・・何それ!?なんで?

ララノア:・・・魔王様?

ヴェル:私は、もう、魔王ではない。

ララノア:そうでしたね・・・では、ヴェル様。私たち魔族がこうやって働いていることを、気に病んでいるのですか?

ヴェル:・・・そうかも、しれん。

ララノア:戦いに負けたからですか?

ヴェル:ふむ。そうだ。

ララノア:ふふふ。お優しいんですね。

ヴェル:いや、私は、終戦間際、放心して戦いへ参加しなかった。

ララノア:いいえ、終戦間際の戦いで、ヴェル様はご自分の身を省みず、戦い続けたと伺いました。それはそれは、魔族の者たちは奮い立ったと、戦争から外れた私たちの耳にも届いています。

ヴェル:・・・そうか・・・すまなかった。

ララノア:何を仰っているんですか。

ヴェル:私は、私たちが、心咎(こころとが)めなくいられる世を・・・。

ギルディ:ヴォルカスよ。

ヴェル:・・・なんだ。

ギルディ:貴様は、何様のつもりだか。

ヴェル:・・・。

ギルディ:なんと!軽薄か!(立ち上がって)このララノアが、このグローリエがどのような思いで今この店を営んでいるのか。

ヴェル:・・・続けよ。

ギルディ:この二人が、常に己が立場の弱さを嘆き、日々を苦しみ続けてるように見えるのか。貴様の目は何を映している。

グローリエ:爺や・・・

ギルディ:叡智なる子等は、己が道を、己が足で歩いている。貴様は、その足が、さも貴様の足のような物言いをする。まだわからんか。

ララノア:そうですよ。ヴェルさん。

ヴェル:ふむ。

ララノア:私たちの道の選択を、さもあなたの選択のように、言わないでください。勝手に背負って持っていかないでください。おせっかいです。

ヴェル:・・・そうか・・・。

グローリエ:・・・でもね!魔王様!

ヴェル:・・・なんだ。

グローリエ:感謝はしているんです・・・。ずっと魔族のために戦ってもらったこと。千年も私たちを思い続けてくれたこと!とっても感謝してますし、尊敬しているんです!少なくとも、私たちは!

ララノア:・・・うふふ、そうですね・・・。

ギルディ:ぬぅ。まったく、アホのようなことをぬかしおって。せっかくの酔いが覚めた。注げ。

グローリエ:はいはーい!爺やはほんとによく飲みますねー。・・・どうぞどうぞー。

ギルディ:(ごくごく飲む)がはぁ。・・・余の奢りだ、一口ぐらい口をつけたらどうだか。

ヴェル:ふむ・・・。

ギルディ:・・・約束は、破らん。がっはっはっは!

ヴェル:そうか・・・。では、一口だけ、もらうとしよう。

ーーーーー

ーー場面変わって翌日、イーラの牢獄へギルディが訪れる

ーーーーー

イーラ:(寝ている)

ギルディ:娘っ子よ。

イーラ:ふぇ・・・ヴェル・・・。

ビビアン:起きなさい!

イーラ:ひっ!・・・ビ、ビビアンさん・・・と、ギ、ギルディ・・さん?

ギルディ:ビビアンは厳しいのう。余でも、寝こける娘っ子を怒鳴り起こしたりせんぞ。

ビビアン:お師様の御前です。シャキッとなさい!

イーラ:は、はい!

ギルディ:ぬぅ。確かに、これは化けるかもしれん。ヴォルカスの間抜けヅラが拝めると良いのう。

イーラ:ヴェ・・・ヴェルは、ヴェルはどこですか?

ギルディ:さて。知らん。

イーラ:ヴェルに、ヴェルにひどいことしないで!!

ビビアン:静かにしてください!!

イーラ:ひっ・・・!

ギルディ:よい。名前はイーラと、言ったかのう。

イーラ:はい・・・

ギルディ:ヴォルカスは、あと数日後に、イーラを助けにくる。

イーラ:ほ、ほんと?

ビビアン:口の聞き方に気をつけなさい!!

イーラ:ひっ・・・ほ、本当ですか?

ギルディ:くだらん嘘はつかない。ビビアン、全て外してくれ。

ビビアン:わかりました。では・・・イーラさん拘束具を外しますが、少しでも魔素を使うようであれば、また昏倒させますので、そのつもりでいてください。

イーラ:は、はい。。。

ギルディ:では、余についてまいれ。

ーーーーー

ーードレスに着替えたイーラを見て

ーーーーー

イーラ:あ、あの・・・こ、これは・・・?

ギルディ:なんとこれは。

ビビアン:とてもよく似合ってますね。

ギルディ:一番綺麗だった頃のイルミアとも。イーラは女神に愛されているのう。

イーラ:え・・・えっと・・・?これは・・・?

ビビアン:ドレスです。

イーラ:そ、それはわかります!・・・けど、どうして?

ギルディ:余興、だか。

イーラ:余興?

ギルディ:これは、男どもが皆、ヴォルカスに嫉妬するかもしれん、がっはっはっは!

ビビアン:そうですね。

ギルディ:羨ましいのう、ヴォルカス。

イーラ:あ、あの・・・

ギルディ:が・・・毎晩泣いておったか?

イーラ:え?

ギルディ:目が、こんなにも腫れて。これでは化粧がのらんのう。ビビアンにいじめられたか。

ビビアン:いじめてません。私は、食事を取らせることも、髪を洗うことも、毎晩行いました。

ギルディ:どうだ。楽しかったか。

ビビアン:慣れません。

ギルディ:がっはっは!そうか。

イーラ:え、えっと・・・

ギルディ:さてと・・・この街で一番優れた化粧師はどこの誰だっか・・・

ビビアン:お師様、イーラさんが困惑をしているので、ちゃんと説明してよろしいですか。

ギルディ:知らん。任せる。余は、催しの支度で忙しいのでな。がっはっはっは!

ビビアン:わかりました。・・・では、イーラさん、よく聞いてくださいね。少し説明が長くなります。

イーラ:は、はい。

ビビアン:この町では、7日後に、3日間、神の生誕祭が行われます。生誕祭は、人の神であるギルディ様へ、我々人の、その年の精進を披露する、バルミスの祭りです。

イーラ:はい。

ビビアン:各地から、学問や工業、芸術など、職人が腕をふるった品々が集まります。また、それを目的に人々がこのバルミスへ集まり、外周を含むバルミスの東半分。つまり、商業区と住宅区を除く、観光区、中央区、工業区、の3区にわたり、催しが行われます。

イーラ:・・・はい。

ビビアン:その初日の正午より、生誕祭で最も人の集まる催しがあります。それが、我々神兵団へ腕自慢の剣客が臨む、神前試合です。こちらは、この中央区の大競技場で行われます。

イーラ:え・・・えっと・・・

ビビアン:そして、ヴォルカスはその最後の試合で、私と剣を交えます。ヴォルカスが勝てば、あなたは自由。私が勝てば・・・そうですね、私の召使いにでもなってもらいましょうか。

イーラ:・・・。

ビビアン:で、この話と、そのドレスに何の関係があるのか、という顔をしてますね。

イーラ:は、はい。どうしてですか?

ビビアン:最終試合は、いわばこの大陸で最も強いものを決める試合を意味します。その表彰として、普段であればお師様が表彰に出向かれますが、もしヴォルカスが勝ったなら、あなたを表彰台へ出向かせましょう。ただし、負けたのであれば、その先2度と、会うことはできませんが。

イーラ:ま!まって・・!会えなくなるの!?

ビビアン:何を言っているんですか、当然です。では、あの場で殺されたかったですか?

イーラ:会えないの・・・やだ・・・

ビビアン:はぁ、駄々をこねないでもらえますか?

イーラ:(泣き始めて)え・・・う・・・。やだ・・・。会えないの・・・やだ・・・。

ビビアン:また、泣くんですか?牢ではおさまっていたと思ったのですが、明るい場所へ出るとそうなりますか。

イーラ:(泣きながら)だって・・・ヴェル・・・に、会いたい、会いたい・・・から・・・

ビビアン:はぁ、泣かないでください。あなたが泣いてしまうと、お師様からの言いつけが果たせなくなります。

イーラ:(泣きながら)ヴェル・・・お願い!ヴェルに・・・ヴェルに会わせて・・・!お願い・・・!

ビビアン:・・・では、私と約束しましょう。ここから7日間、1度も泣かずにいれば、勝ち負けにかかわらず会うことを許可しましょう。

イーラ:・・・はい・・・わかりました・・・約束・・・わかりました。(頑張って泣き止む)

ビビアン:よろしい。あ、あと、今日からこの部屋、国賓室で過ごしてください。

イーラ:え・・・?こ、ここですか?

ビビアン:牢に捕らえていたのは、万が一にでもヴォルカスが襲ってきた場合のためです。あなたという人質なしであの男と戦うことは、不可能です。ただ、昨晩お師様が話をつけてきた、と自信満々に仰ってましたので。

イーラ:ど、どういうことですか?

ビビアン:詳しくは、ギルディ様に聞いてください。・・・あと、ちゃんとしたご挨拶が遅れました。

イーラ:え?ご、ご挨拶?

ビビアン:私は神兵団筆頭騎士のビビアン シュバリエ セブと申します。生誕祭までの7日間、護衛をつとめさせていただきます。

イーラ:へ、よ、よろしくお願いします。

ビビアン:私の方こそ、どうぞよろしくお願いします。高尚(こうしょう)なる魔族の姫様。

ーーーーー

ーーただ君だけを、守りたいと願う〜金色〜

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